



何世紀にも亘って、ベンガルの農村の女たちは布の上に刺繍で夢を描いてきた
やさしく葉を揺らすヤシの木陰で 家族が暖かく快適にすごせるように
古布を重ねてキルティングにいそしむ女たち
心に浮かんだままのイメージを 軽快に動く指先で 針を筆 糸をパレットにして
白い布のキャンパスに描く
彼女たちの針が話すのは特別な言葉 直線縫いで語るカンタの言葉

ベンガルの女性たちは、使い古され柔かくなった白木綿の古布を重ねて刺し子し、宗教モチーフや幸せをもたらす動植物、身の周りの道具など、ベンガルらしい図柄を刺繍で描いてきました。
家族の幸福と繁栄を祈って作られたカンタは、宗教儀式や花婿花嫁の座る敷布、赤ちゃんを包むおくるみに使われ、人々の慎ましい日々の暮らしを豊かに彩って来たのです。
また結婚の時に母が刺して持たせたカンタが素晴らしければ娘も

良い嫁になるとされ、昔は大事な嫁入り道具の一つとされました。
単調な家庭の縫製に始まったカンタは、やがて政治的なベンガルの時代の変遷の中で、人々の心を映し、守るべきものとして創造芸術の域に達して行きました。
現在では質の高い民族芸術として広く世界に知られています。
伝統のカンタの持つ美しさと呪力、祝の精神は現代のカンタにも生き続けています
「蓮と生命の樹/包布」1870年頃
提供:福岡アジア美術館
所属:JahanaraZainulAbedin
◆神様

◆蓮の花



ヒンドゥー教の神様
神様(ヒンドゥー教、仏教)が降りてくる場所を表し、昔のカンタでは中心
に刺繍された神聖な柄。バックの白生地に白糸で全面に細かい刺し子
の地刺しを施し、その上に蓮のモチーフが描かれている。
◆生命の樹


生命の樹のモチーフは世界中で見られるが、カンタでは布の四隅に様々なデザインで描かれ、枝の広がりが繁栄と豊穣の意を持つ。
◆動植物



昔からカンタでは、素朴で身近な魚や馬、孔雀、サソリ、キンマの葉等が災いを避け、家族に幸福を呼ぶとして多く描かれている。
◆自然



波紋のように家族の広がりを意味する波、あらゆる生命を取り込む渦巻は使うものに幸運をもたらす。
《参考文献》
図録「生活とアートⅡベンガル刺繍 カンタ-その過去と現在」
福岡アジア美術館2001年
◆最近のカンタの柄
最近のカンタにも、昔ながらの人や動物、自然を題材にしたモチーフが使われています。家より人の方が大きかったり、とても小さな象がいたり、と微笑ましい限りですが、今に引き継がれる伝統を身近に感じられると同時に、斬新なデザイン性も感じます。


◆象

◆小鳥

◆ライオン

◆太陽

◆猫
